未来の妊娠と、乳がん治療【妊孕性温存】
動画ナレーション全文
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目次
00:00 はじめに
今回は、乳がんの治療中、あるいはこれから乳がんの治療を受ける方のなかで、将来妊娠・出産を希望する方に向けて、ぜひ知っておいていただきたい大切なお話です。
今回のお話の流れは
- ①乳がん治療は「妊娠」にどう影響する?
- ②「妊娠」の可能性を残すという選択肢
- ③「気になる点」も知ってから選ぼう
- ④どこで相談できるの? 費用は?
となっています。
00:41 乳がん治療は「妊娠」にどう影響する?
乳がんと診断された方は、きっと治療に対する不安で頭がいっぱいになっておられることでしょう。それでも、乳がん治療のこと以外に、いま考えておいていただきたい大切なことがあります。それは、「未来の妊娠」についてです。皆様にまず最初に知っておいていただきたいのが、「乳がん治療の種類によっては将来の妊娠のしやすさに影響を与える場合がある」ということです。
近年は、医学の進歩により、多くの患者さんが乳がんを克服できるようになりました。しかし、その治療の中には副作用として妊娠する機能に影響を及ぼすものがあるのです。なかでも全身治療の1つの化学療法は卵巣の機能を低下させてしまいます。また、ホルモン療法は、投薬中や投薬終了直後に妊娠すると、生まれてくる子どもに先天異常が生じる可能性が高くなります。従って一定期間は主治医の指示のもとで厳格に避妊することがとても大切です。
さらに、このホルモン療法は、一般的に5年~10年と長期にわたる治療です。そのため、投薬している間に年齢が高くなって卵子の質が低下するなどし、妊娠のしやすさに影響を与えることがあります。
02:10 「妊娠」の可能性を残すという選択肢
では、将来妊娠・出産を希望される方は、具体的にどうすればよいのでしょう。
まずはじめにすべきことは、「できるだけ早く乳がん治療の担当医に妊娠の希望を伝える」ことです。きっと、「未来の妊娠」の可能性を残しておくためにどのような方法があるのか、情報を聴けるはずです。この技術のことを、専門用語では「妊孕性温存療法」もしくは「がん生殖」などといいます。これは、卵子や精子、受精卵、卵巣組織を凍結保存しておく医療技術です。これをしないと将来妊娠できないというわけではありませんが、未来の妊娠の可能性を高めるために、よく選択される手段です。
さて、ここからは、妊孕性温存療法を決断する前に知っておいていただきたい「気になる点」をいくつかご説明します。
1つめは、「妊孕性温存療法によって乳がん治療に遅れが生じた場合、どれほど乳がんの予後に影響するのか」がよくわかっていないということです。そのため、妊孕性温存療法を受ける際は、乳がん治療にできるだけ影響が出ないように、スピーディにすすめていくことが大切です。また、「妊孕性温存療法そのものが乳がんの予後にどれくらい影響するのかについて」も実はまだよくわかっていません。まだまだわからないことがあるなか、ご本人・ご家族の希望をすり合わせながら選択していく必要があります。
2つ目は、妊孕性温存療法は将来の妊娠や出産を確約するものではないということです。これは日本産科婦人科学会が毎年発表している、生殖補助医療の全国成績を示したグラフです。生殖補助医療とは、がんの有無にかかわらず、妊娠を成立させるためにヒトの卵子と精子、あるいは受精卵を取り扱うすべての医療のことを指しています。このグラフによると、女性の年齢が35歳を過ぎた頃から、年齢を重ねるとともに赤の妊娠率、緑の生産率は低下し、一方で紫の流産率は上昇することが見て取れます。この傾向は年度による差はなく、値の変動もほとんどありません。また、青の線を見てみると、33歳頃までに生殖補助医療を受けて、得られた「受精卵」をお母さんのおなかに戻せたケースでも、一度のチャレンジの妊娠率は、せいぜい45%程度であることがわかります。
つまり、がん治療を受けているかどうかは関係なく、そもそも女性の加齢とともに妊娠・出産の可能性は下がっていくものだということ妊孕性温存療法も含めて、生殖補助医療は妊娠・出産を確約するものではないということは理解しておく必要があるでしょう。
05:17 「気になる点」も知ってから選ぼう
また、「気になる点」は患者さんによってそれぞれ違うと思います。例えば、妊孕性温存療法には種類があって個人によって適応となる方法が変わることです。患者さんが未婚か既婚か、実施時の年齢はおいくつなのかなどの背景情報によって、推奨される方法が異なり、それによって治療成績も変わってきます。くわしくは、専門施設でカウンセリングを受けてください。
05:47 どこで相談できるの?費用は?
では、カウンセリングを受けたいと思った場合、どこで相談できるのでしょうか。産婦人科ならどこでもいいわけではありません。実際には、「がん・生殖医療」を行っている、不妊治療専門の施設で受けていただくことになります。乳がん治療と同じ施設内で受けられるケースもありますが、乳がん治療の担当医から連携先の施設を紹介されるケースもあります。
いずれにせよ、将来妊娠を希望される患者さんには、この乳がん治療施設とがん・生殖医療施設の間をできるだけ短期間で行き来していただき、最終的に「妊孕性温存療法を受けるかどうか」を決定することになります。
最近では、多くの地域で『地域ネットワーク』といって、医療機関の連携体制が構築されてきています。乳がん治療の遅れをきたさずに妊孕性温存療法が受けられるように、環境が整ってきておりますのでご安心ください。
もしも、ご自身でがん・生殖医療施設をお探しになるような場合は、「妊孕性温存療法 医療機関一覧」と検索してみてください。日本産科婦人科学会のHPに一覧が掲載されています。
それと、どうしても心配なのが費用面のことかと思います。若年乳がんサポートコミュニティPink Ringが主体となって行った調査研究によりますと、これまで妊孕性温存療法のために50万円以上支払っている方が数多くいらっしゃいました。当然がん治療にもお金がかかるので、経済的基盤が不安定な若年世代には大きな負担でした。そこで、2021年から、国と地方自治体によって、43歳未満のがん患者さんなどを対象に、妊孕性温存療法の経済的負担を軽減しようという事業が始まりました。ただし、助成金は助成事業の対象となっている医療機関にかからないと受給できないため、ご注意ください。また、対象者や上限額、申請方法などについては自治体によって異なる場合があります。詳細はお住いの自治体窓口にお尋ねください。
08:12 今回のポイント
今回のポイントです。
乳がん治療の種類によっては未来の妊娠のしやすさに影響を与える場合があります。がん治療のことだけでなく「未来の妊娠」についても同時に考えましょう。「未来の妊娠」の可能性を残す選択肢として妊孕性温存療法という医療があります。将来妊娠・出産を希望する可能性が少しでもある方は、治療前、治療中でも、可能性がある段階でできるだけ早く乳がん治療担当医に相談しましょう。それぞれの患者さんにベストな選択ができるよう乳腺外科医、生殖医療医が情報提供を行います。