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初期治療について
2023.06.25

乳がん手術前後の薬物療法 ~術後再発リスクを下げるために~【乳腺科医が解説】


動画ナレーション全文

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00:00 今回のお話

今回は、

  • 乳がんの手術前後の薬物療法って何?
  • お薬の治療はどうやって決めているの?
  • お薬の治療は何故するの?

ということについてお話しします。

00:19乳がんの初期治療って何?

 乳がんの初期治療についてのおさらいです。乳がんと診断され、最初に受ける治療を「初期治療」と呼びます。「初期治療」というのは、他の臓器への転移がない乳がん患者さんの治療として、乳がんを完全に治すこと(治癒)を目指すものです。

 初期治療には、化学療法・ホルモン療法・分子標的治療といったお薬の治療である全身治療と、手術、放射線療法といった腫瘍のある場所に対する、局所治療の二つに大きく分けられます。乳がん治療というのは病状に合わせて局所治療と全身治療を組み合わせながら治療を行います。

01:09 乳がん手術前後の薬物療法って何?

 乳がんの薬物療法には3つの種類があります。ホルモン療法化学療法、いわゆる抗がん剤、HER2陽性乳がん患者さんに適応となるトラスツズマブ(ハーセプチン)をはじめとした分子標的治療です。これらを病状に合わせて組み合わせて治療が行われます。

01:33お薬の治療はどうやって決めているの?

 術前もしくは術後のお薬の治療はどのように決めるのでしょうか。

 診断時の生検、手術でとった組織を顕微鏡で観察し、乳がんの顔つきであったり、どのようなお薬が効くのかを調べています。この結果をもとに乳がんの性質再発のリスクを判定します。

 加えて、患者さんの全身状態、治療に対する希望、月経の有無などを考慮してホルモン療法・化学療法・分子標的治療をどのように組み合わせるのかが決定されます。

 さてこれから、薬物の選択基準として大事な項目である、乳がんの性質・再発のリスクについてみていきましょう。

02:22乳がんの性質(サブタイプ)

 乳がんは大まかに4つの種類に分類されます。女性ホルモンの影響をうけて育つタイプのものかどうかがきまるホルモン受容体、を持っているものと持っていないもの、腫瘍を増殖させるシグナルを出すHER2と呼ばれる受容体、を過剰に持っているものと持っていないものの4つです。

 ホルモン受容体あり・HER2なしの方はおおよそ76%、ホルモン受容体あり・HER2なしの方はおおよそ7%、ホルモン受容体なしでHER2のみある方はおよそ7%、ホルモン受容体もHER2もないものを通称トリプルネガティブ乳がんと言い、およそ12%程度の頻度です。

 ホルモン受容体を持っていれば、ホルモン療法がおこなわれ、HER2を過剰に持っていればトラスツズマブ(ハーセプチン)をはじめとした分子標的治療薬が適応となります。また場合によっては抗がん剤を組み合わせて治療します

 このように乳がんではサブタイプに合わせた個別の治療が行われます

03:37 再発リスク

 次に再発のリスクについてです。

 再発のリスクというのはとった腫瘍から得られる様々な情報をもとに、低い・中ぐらい・高いといったおおまかなレベルで予測されます。同じステージ、同じサブタイプの中でも、再発のリスクには違いがあります。再発する・しないが事前に分かれば、お薬の治療を再発する人にだけすることができますが、それを正確に予測することは正直難しいのが現状です。

04:14 再発リスクと薬のメリットの違い

 再発予防のお薬の治療は全員が同じように受けるわけではありません。例えばの話、再発リスクが半分に減る薬があるとします。お薬の治療なしで再発リスクが60%と予想される患者さんでは、このお薬の治療をすることにより30%再発リスクが減ることが期待できます。

 一方、お薬の治療なしで再発リスクが6%と、もともと低いリスクの患者さんでは、同じお薬の治療を受けたとしても見込めるリスク減少効果は3%程です。つまり、同じお薬の治療を受けたとしても、もともと持っている再発リスクによって、得られる薬のメリットは違うという事です。お薬の選択については、担当医と十分に話し合って、治療法を決める必要があります。

05:12 お薬の治療は何故するの?

 最後に、そもそも、手術をちゃんと受けて乳がんを取り除いたのに、お薬の治療まで何故しなければならないのか?という事を考えてみましょう。乳がんがしこりとしてみつかったときに、またはみつかる前から、すでにからだのどこかに顕微鏡で見ないとわからないくらい小さな転移、CTなどの画像検査でも見つからないがん細胞が微小転移という形で血液中・リンパにのって乳房以外の体のどこかに存在していることがあります。この微小転移をすべて手術で取り除くことはできません。このような目に見えない細胞が長い年月をかけて増え、目に見える大きさの塊となると、転移・再発として検出されるわけです。

 なので、術後に薬物療法を行う理由は、この微小転移を根絶やしにすること、そして再発リスクを下げ、生存率をあげることにあります。そして薬物療法は術前・術後いずれのタイミングでも行う事が可能なのです。

06:24 今回のポイント

今回のポイントは

  • お薬の治療は全身の治療で、体のどこかに潜んでいる微小転移を根絶やしにするためにおこないます。
  • お薬の治療は乳がんの治療の中でも、再発リスクを下げ、生存率を上げるために行う大事な治療です。
  • また、治療は患者さんそれぞれの腫瘍の性質・再発リスクにあわせて個別の治療を行います。

ということです。

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